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子供たちへ がん患者が届ける生命(いのち)の授業

がんと仕事について

LH 就労の話についてですが、実際に治療に入る前にちょっと入院されて、会社の上司の方に入院します。という話をされたと思うんですけど。
会社としての反応について教えてください。

栗原当時朝日新聞タウン誌(タウンタウン熊谷)の編集長という立場にいて、大好きな仕事だったんですね。仕事を続けたい、でも治療もしなきゃいけない、と悩み、上司に相談しました。

LH上司は男性の方?

栗原男性です。理解を示してくださいました。
A病院の病室にはパソコンが常備され、部下たちと原稿のやり取りができました。入院前に、指示を出し、部下の書いた原稿は送ってもらいチェックをすることもできました。2回目の入院時には、前もって主治医が治療計画を立ててくださったんで、一番支障がない時期に(入院を)入れてくれた。

LH2回目の入院は何ですか。

栗原短期放射線治療で入院を選びました。放射線治療は他の病院でも可能でしたが、同じ病院で治療したいとの思いから短期を選んだんですね。ところが放射線治療を始めたら副作用が強く出てしまったんです。結局、入院は長引いてしまいました。それでも何とか仕事は乗り切ることができました。

LH例えばですが 好きな仕事だし、仕事に対する責任もあると思うんですけど完全に休むということになった場合はどうだったのでしょうか?

栗原おそらくクビになっていると思う。

LH本当ですか?

栗原わかりませんが…でも、罹患してから2年半の間ずっと治療が続いているわけですよね。 2年半経った時に、仕事の厳しさや部下に負担をかけているという負い目もあり、心苦しくて、周りに迷惑をかけてしまうこともありましたので、自ら退職を選びました。

LHそうなんですか。居づらくなっちゃうみたいな感じ?

栗原部下に負担をかけるのが一番つらかった。
それからは、しばらくフリーで、頼まれるライターをやっている時期に、現在の埼玉新聞タウン記者制度に登録をすることができました。取材して新聞記事を書く、好きな仕事に再び出会えました。もちろんピンクリボン活動をしていることは理解してくれていますので、非常にありがたいです。

LH難しいですね仕事や就労。

栗原会員さんで独身、30代の子が乳がんになりました。
就職をしたい。だけど、エントリーシートに「乳がん治療中と書くと、悉く落とされてしまう。だからがん治療中って書いた方がいいのか書かない方がいいのか」サバイバー茶話会で議論になりました。
正直に書くべきだ、という意見と、そこまで落とされるんだったら書かなくてもいいんじゃないか、という意見。治療中ですが、生活は普通に送れます。
やはり職場での働く仲間の理解は必要だと思っています。万が一、再発してしまったり、本当に具合が悪くなった時に「実はがんでした」と、そこでわかるよりも、初めから理解を示してくれている会社の方がいいと思います。
また、ある労働組合で乳がんセミナーを依頼された時、男性管理職の方が、「部下にどうやって(検診について)声をかけていいか分からない」とおっしゃっていたので、それはね「君、今年は検診に行ったかい?」って声かけてあげてください、と答えました。
もし、「未だ検診に行っていません」って答えたら、「1日くらい有給休暇をとって検診に行って来いよ」ってぜひ言ってあげてくださいって! 部下が元気なら仕事だって上手く回っていきますし、病気になって休まれることの方がよっぽど リスクが高いわけですから。上司から部下に年に一回でいいから 「今年は検診に行った?」って声をかけてくださいっていうお願いをしています。

LH確かに早期に見つかれば休む期間も短くて済みますね。

栗原おっしゃる通りです。現在、働くがん患者は全国で36万5千人いると言われています。そのうちの3人に1人は自分で自分の会社に「自分はがん」だと言えない現実があるわけです。
だから子供たちに、「皆さんはそんなサバイバー差別についてどう考えますか?」って 問いかけています。 答えを出すのは子供たち自身。答えを与えるのではなくて、子供たち自身にそんな現実を、そんな日本を考えて欲しいから。
だからこそがん教育は大切で、自分ががんになる時、親が、がんになる時、友達ががんになる時。想像力を働かせて、ちゃんとした社会を作ろうって思う子供たちがいっぱい増えてくれたら、きっといい世の中になると…。

LH本当にそう思います。

栗原10数年後の熊谷市はがん検診率がうんと上がるんじゃないかなんて期待をしているんです。いつかきっと日本一の検診率になんじゃないかなって期待しているんです。

LH啓発を受けたお子さんたちが将来いろいろな問題を解決してくれる力になってくれそう。
検診率が上がって健康でいられることも大事ですが、がんになっても会社に言えて治療と仕事が両立できるというふうになると良いですね。

栗原治療費は経済的にも大きな負担となってきます。それなのにがん患者は収入が大きく減ってしまうことも問題になっています。中にはがん治療を諦めてしまう人が約10%いると言われているくらいやはり「がんと就労」はまだまだ大きな問題だと思います。

LH二人に一人ががんになるのに、働き方や働く場所についてもっと柔軟に考えないといけないですね。

栗原はい、そう思います。がん教育で伺った中学校の校長先生が前立腺がんになってしまいました。 せっかく校長先生が…言い方は変ですが、「前立腺がんになったんだから、(授業の)間の10分間は是非校長先生の体験談を話しませんか?」と声がけしました。 しかもダヴィンチのロボット手術をしている。
校長先生はリンパ浮腫予防のために、毎日弾性ストッキングを履いているんです。でも、生徒らはまさか、(がんのせいで)ズボンの下にストッキングを履いているなんて思ってもいない。子供達も毎日身近に会う校長先生が、まさかがん患者で…。がん患者に対するより理解をより深めてくれました。
また、別の中学校では 30代前半のイケメン男性教師が、実は小児がん経験者でサバイバーでした。未だ後遺症のせいで右腕が自由に動かないハンデをお持ちでした。ですが、誰もその理由を知りません。今年度、その先生は「生命の授業」でカミングアウトしてくれると約束してくれました。

LH話すきっかけが必要なんですね。

栗原そうですね。

LHでも、がん患者さんが身近にいてがん=死ぬわけじゃないんですよという教育をしてくれていればずいぶん違いますね。

栗原怖い病気じゃないってね。 それからね、がんを打ち明けてから先生に対して生徒達がすごく優しくなったって(笑)。

LHいい子達だ(笑)。

栗原だから本当にお互いに良かったなって。

LH思いやりのあるお子さんたちですよね。

自治体を巻き込んで更なる活動へ

LH今後の活動の予定についてお教えください。

栗原活動の幅は広がっていると思います。いろいろ仕掛けを考えています。今年の母の日には「お母さん、笑いで免疫力をアップしましょう!」と地元の老舗和菓子店「梅林堂」のカフェとコラボで母の日キャンペーンを展開します。また、今秋、世界的なピンクリボンデーの10月1日には熊谷市内にある国宝の聖天様をピンク色にライトアップ事業を予定しています。 もう一つの大きな目標は悲願でもある「がん条例」を熊谷市に制定すること。3年前から働きかけています。

LHがん条例というのは具体的にどういう感じになるんですか。

栗原例えば、「がん教育」についても、条例項目の中で謳えば、例え弊会が無くなってしまったとしても、それは継続されていくことになります。小児がんやAYA世代のがんについても、行政としてしっかりフォローアップしていく、というような。条例案は27項目提案しています。熊谷市にはがん拠点病院がありません。それだけにがん難民を増やしたくない。

LHなるほど。確かに継続は大切ですね。栗原さんたちが先を考えて活動しているのが良くわかります。熊谷は拠点病院がなくって乳腺クリニック自体も少ない?

栗原少ないですね。また、熊谷市の死亡原因の第1位が「がん」で577人もの方が亡くなっています。乳がん(平成28年度)だけでも年間32人の方が命を落としているのです。

LHうまくいっていない理由はなんだと思いますか?

栗原本当の意味でがん患者を救えていないというのが現状だと思います。

LH行政では、無料の法律相談はありますよね、ですが、がん患者やその家族が気軽に行ける相談窓口がないのです。ひとりの患者を取り巻く医療者(福祉や保健師も含む)などの充実も考えて欲しいのです。

栗原さんの現在

LH現在は、元気にフルタイムで働いているのですか。

栗原はい、おかげさまで。今はリンパ浮腫のケアと、治療の副作用で骨粗鬆症になってしまったので、その治療はしていますが、元気です。だから大丈夫! 乳がんは「10年戦争」と言われているように、手術が治療のスタートで、特にホルモンタイプの患者さんはホルモン治療が長く続きますので、皆さん個々に大変だったりします。ですが、元気にしているがんの先輩達はたくさんいます。私たちはそんな先輩方から勇気と希望を頂いてきました。ですから、今度は私たちが後輩たちに繋いで行きたい、っていう思いがあります。

LH前向きな方が多いですよね。

栗原多いです。特に乳がんって元気な人が多くて、前向きで見習わなきゃ、って思います。

LH先日キャンサーギフトの話を聞いたんですけど、そういうのって何かありますか?

栗原はい、子供達に必ずキャンサーギフトの話はしています。私のキャンサーギフトはなんといっても啓発活動をしてくれる仲間たちができたこと。それから全国にがん友ができたこと。それからいくつになっても勉強ができるということがわかったこと。 だから、がんは今ではそんなに悪いもんじゃないと。がんになる前よりも、がんになった今の方がたくさんの贈り物を頂いているという、今を生きるということを再確認することが出来たことを子供たちに伝えています。

LHサバイバーの人たちと話していると、なんだか生きている時間が違う感じがしますよね。

栗原全然そんなこと思って生きてきてなかったので。それが、いろんな人と出会うことができた。 先生方もそうですし。 埼玉県では矢形寛先生(聖路加病院から埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科教授へ、くまがやピンクリボンの会の顧問医)が来てくださってから『埼玉乳がん検診検討会』というのを立ち上げてくださいました。そこでは埼玉県内の50数人の乳腺専門医の先生方と技師、行政関係者、患者が参加し定期的に勉強会を開いているんです。

LHどんなことを勉強されているのですか?

栗原昨今注目されている『高濃度乳房』の問題だけでなく、乳がん検診に関するいろいろな話題についての情報交換、課題の検討、知識の共有を図っています。

LH非常にアクティブですよね。 栗原さんたちを中心に自治体への働きかけ、会のサポートや治療を通じて先生方との繋がりもできて両方をつなげるハブに今なっている感じですね。

栗原そうありたいと思っています。代表って外交官みたいなものだと思っているんです。色んな所にご縁をつないで森代表(リガーレヘルスケア&弊会)と知り合ったのもそうですし。患者自身とそれから患者予備軍の人たちの役に立つことが、できればいいなと思っているので。 それが、自分ががんになった使命かなと思っています。

最後にこれから検診を受ける女性に対してメッセージを

栗原検診を受けて、「がんが見つかると怖いから行かない」っていう人、女性の声をたまに聞きますが、怖いから行かないのが「怖い」のです。
早く見つかれば必ず治るがん、助かる命があるということを分かってほしい、知ってほしい。怖いから行かないのではなく、行かないから怖いと思っていただきたい。みなさまにお願いしたいのは、「月に一度の自己触診」。
これは本当にしっかり覚えてほしいです。たくさんあるがんの中で乳がんは、唯一自分自身で見つけることができるがん、だからです。 自分の体を知る、自分の乳房の状態(高濃度乳房かどうか)を知ることをやっていただけたらと、強く思います。 みなさまがいつまでもいつまでも健やかでありますように!

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